採用にエンタメは効く?ショートドラマ・漫画・SNSの手法を比較

求人票を出しても、反応が薄い。条件は悪くないはずなのに、そもそも見てもらえない。そんな悩みを持つ社長は少なくありません。
最近は、ショートドラマや漫画、ゲームのような診断など、遊びの要素を入れた採用を見かけるようになりました。ただ、「ふざけた会社だと思われないか」「うちの規模でやる意味があるのか」と迷うのは当然です。
この記事は、建設・製造・運送・介護などの中小企業の社長に向けて書きました。採用とエンターテインメントの相性を、求職者の動き方から整理し、ショートドラマ・漫画・SNSなど6つの手法を比べます。
目次
求職者の情報の集め方が変わった
スマホと動画が、会社を知る入り口になっている
仕事を探す人が最初に開くのは、いまはスマホです。求人サイトだけでなく、動画やSNSで会社の雰囲気を見ることも当たり前になりました。
総務省の「令和7年版 情報通信白書」は、「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」をもとに、YouTubeの利用率を整理しています。それによると、2024年のYouTubeは50代までの各世代で8割を超え、60代でも7割以上が使っています。動画は、もう若者だけのものではありません。
求職者が動画で会社を探す土台は、すでにできています。
第三者の投稿も、見られている
会社が自分で出す情報だけが見られているわけではありません。マイナビの「2025年卒 大学生活動実態調査(7月)」は、2024年7月に大学生・大学院生2,646人から回答を集めた調査です。
この調査では、第三者のSNS投稿などを見て好印象を持ち、その会社の採用情報を見たことがある学生が23.2%でした。反対に、悪い投稿を見て不安になり、その会社への応募をやめたことがある学生も18.4%います。きっかけになったSNSは、X、YouTube、Instagramが多く、そのほかは各10%未満でした。
第三者のSNS投稿などと就活生の行動(マイナビ・2025年卒・2024年7月調査)
調査対象は2025年3月卒業予定の大学生・大学院生2,646人(マイナビ会員)です。中途採用や高卒採用の数字ではありません。
大学生の調査なので、そのまま自社の採用に当てはまるとは限りません。それでも、会社の外で語られる印象が、応募するかどうかを左右していることは読み取れます。
求人票だけでは届かない人がいる
もう一つ、押さえておきたいことがあります。求人票は、条件を比べるには向いていますが、まだ「この会社を知りたい」と思っていない人には読まれません。
給与と休日が似ていれば、あとは「ここなら続けられそうか」の感触で決めることが多いはずです。その感触を伝える材料が、求人票には書きにくいのです。

POINTこの節のポイント
- 動画やSNSは、会社を知る入り口として定着している
- 会社の外で語られる印象も、応募のきっかけと取りやめの両方に関わる
- 条件は求人票で比べてもらい、感触は別の形で伝える
なぜ「物語」や「遊び」は採用で効くのか
一般論として考えます。採用で物語や遊びが使われる理由は、大きく3つあります。
人柄や空気は、条件では伝わらない
「アットホームな職場です」という一文は、どの会社の求人票にも載っています。これでは、読む側は何も判断できません。
物語なら、同じことを場面で見せられます。たとえば、新人が失敗した日の夕方、先輩が黙って缶コーヒーを置いていく。説明しなくても、その会社の空気が伝わります。言葉で言い切るより、場面を見せるほうが、読み手は自分で判断できます。
自分に置き換えて考えやすい
物語には人物がいて、読み手は「自分ならどうするか」を考えます。条件の一覧では、自分がそこにいる姿までは浮かびません。物語を読んだあとなら、「この会社で働く自分」を頭の中で一度試せます。応募するかどうかを決めるとき、この「試した経験」が背中を押すことがあります。
覚えてもらいやすく、人に話しやすい
話の筋や印象に残る人物がいると、「あの、社長が現場で泣いていた会社」のように、中身ごと思い出してもらえます。友人や家族に話すときも、条件より物語のほうが伝えやすいものです。家族に話してもらえることは、特に中小企業の採用では見過ごせません。
「遊び」は、入り口を低くする役目
ゲームや診断のような遊びは、物語とは少し違う働き方をします。読む、見るより、「やってみる」ほうが気軽です。会社に興味がまだない人でも、診断を一つ試すくらいならできます。入り口を低くして、そのあとで中身を見てもらうのが、遊びの強みです。
ただし、物語や遊びは、伝わるきっかけを作るだけです。応募の決め手になるのは、そのあとで見る条件と、会社の実際の姿です。
採用エンタメの手法を比較する:ショートドラマ・漫画・SNSほか
採用で使えるエンターテインメントには、いくつかの手法があります。費用は会社や依頼内容で大きく変わるため、金額は書かず、得意なことと手間の違いで比べます。
6つの手法を、1枚の表で比べる
表は横にスクロールできます
| 手法 | 得意なこと | 苦手なこと | 主な手間 | 始めやすさ |
|---|---|---|---|---|
| ショートドラマ・採用動画 | 表情、声、現場の動き。縦型はSNSと相性がよい | 音を出せない場所での視聴 | 撮影日程、出演者の同意と調整 | 社員の協力が要る |
| 漫画 | 気持ちや迷い、社長の考え。スマホの縦スクロールに合う | 細かい条件、正確な数字 | 取材と内容の確認 | 一度作れば長く使える |
| SNSの日常発信 | 朝礼や昼休みなど、ふだんの空気の積み重ね | 短期間での成果 | 毎日の投稿と運用 | 小さく始められる |
| ゲーム・診断 | 気軽に試してもらうこと | 会社の細かい中身の説明 | 設計と制作 | 小さくは始めにくい |
| イベント・職場見学 | 場所と人を体で知ってもらう | 遠方の人、多数の人への対応 | 準備と受け入れる社員の時間 | 日程の都合がつけば可能 |
| 社員が出る読み物・インタビュー | 働く人の言葉を文章と写真で残す | 関心のない人に届けること | 取材と文章化 | 始めやすい |
動画と漫画の2つにしぼった比べ方は、採用動画と採用マンガの違いで詳しく書いています。
中小企業では、制作の費用より、社長や現場の社員の時間のほうが重い負担になりやすいものです。漫画は外部に取材から任せる形が多く、社内の作業は取材と確認が中心です。どの手法も向き不向きがはっきりしているので、組み合わせる前提で考えるのが現実的です。
業種との相性も、考えておく
- 建設や運送、製造は、現場の動きが絵になる。動画や写真が強く、漫画は「現場で何を考えているか」を補う
- 介護や医療は、人と人のやりとりが中心。場面を見せる漫画やドラマが合う。ただし、利用者の個人情報には注意が要る
- 小規模な店舗やサービス業は、社長の人柄が前面に出る。SNSの日常発信やインタビューが続けやすい
目安です。迷ったら、「自社でいちばん伝わりにくいのは何か」から逆算してみてください。
企業が公表している取り組みの例
会社や自治体が自分で公表している取り組みだけを紹介します。成果の数字は、公表されたもの以外は書きません。
ビヨンドの「転生したらインターン」
IT企業の株式会社ビヨンド(大阪市)は、2022年9月6日に、新卒採用向けのブラウザRPGを公開したと発表しています。プレイヤーは勇者としてインターンに転生し、サーバー障害への対応やデバッグ作業を疑似体験する内容です。
同社の発表では、勇者以外の登場人物はすべて実在の社員で、マップは大阪オフィスを再現しています。代表との面接イベントの結果で、エンディングが変わるとも書かれています。時間を選ばず遊べる形にして、広い地域の学生に接触することを狙っている、という説明です。
ここから学べるのは、遊びの形でも、中身は仕事の疑似体験だという点です。なお、応募数などの結果は発表に書かれていません。
福島県の「FUKUSHIMA Work Stories」
福島県(雇用労政課)が主催し、FindValue株式会社が運営する事業です。2025年度は、学生が県内企業を取材して脚本を書き、撮影し、プロのクリエイターによる編集を経て、ショートドラマに仕上げました。2025年11月1日から、完成した作品が各種SNSで順次配信されています。
県は、若年層の県外転出が続いていることを課題にして、県内企業の認知度と、県内就職への関心を高めることを目的にしています。
学生が取材して作るので、会社の外からの目線で語られるのが特徴です。完成した作品が採用にどれだけつながったかは、確認できた範囲では公表されていません。
関家具の診断ゲーム入りの採用サイト
関家具は、2026年3月に採用サイトを全面リニューアルした、と報じられています(ネットショップ担当者フォーラム・2026年3月23日)。サイトの入り口に簡単な診断ゲームを置き、結果で「クリエイターパーソン」と「ビジネスパーソン」の2タイプに分け、タイプごとにデザインと切り口を変えて内容を見せる、という仕組みです。
あわせて、「数字で知る関家具」のコーナーや、社員インタビュー、スタッフの出身地や平均年齢の紹介も設けられています。遊びの入り口だけでなく、条件や事実を確かめる情報も同じサイトに置いている点が、参考になります。
この3例に共通すること
どの例も、遊びや物語の部分は「入り口」で、そのあとに仕事の中身や会社の事実を確かめる場所が用意されています。エンタメだけで完結させず、確かめる場所を別に作る。この組み立ては、規模に関係なくまねしやすい考え方です。
エンタメにしすぎる落とし穴
エンタメは入り口を作る力が強い分、使い方を間違えると逆効果になります。起こりやすい失敗は3つです。
盛りすぎて、入社後にずれが出る
面白く見せようとするほど、現実より良い会社に見えてしまいます。
動画の中では笑顔ばかりだった職場が、実際には忙しい時期は無言で作業している。漫画で描かれた優しい先輩が、現場では厳しい。入社した人は、「聞いていた話と違う」と感じます。惹きつけた人数が増えても、辞める人も増えれば意味がありません。
注意盛りすぎのサイン
- 社内の人が見て、「ちょっと違う」と笑う場面がある
- 良い場面だけで、大変な場面が一つもない
- 実際より給与や休日が良さそうに見える
大変な場面も、入れておくほうが信頼されます。きつい仕事なら、きついと伝えたうえで、何がやりがいかを見せるほうが、合う人が集まります。
ふざけて見えて、会社の信用を下げる
遊びを入れすぎると、真剣に仕事を探している人には、軽く見えることがあります。特に、保護者や、年上の応募者の目は気になるところです。
判断の目安は、「社長が自分の家族に見せられるか」です。家族が見て恥ずかしいと感じるものは、求職者にも同じように伝わります。流行のネタを借りる場合は、その流行が終わったあとも古く見えないか、考えておきます。
条件が伝わらず、応募後に食い違う
物語や動画は、気持ちを伝えるのが得意で、条件を正確に伝えるのは苦手です。それなのに、条件の説明を省いてしまう例があります。
求人に関する情報を提供するときは、虚偽の表示や、誤解を生じさせる表示をしてはいけません。これは職業安定法第5条の4に定められています(厚生労働省の資料に条文が引用されています)。物語の中の表現が、実際の給与や休日、仕事の内容と食い違って見えないよう、気をつける必要があります。
注意条件は、必ず別の場所で正確に
エンタメの中で給与や休日の数字を出す場合は、実際の求人票と一致させてください。迷うときは、数字は出さずに求人票のリンクだけを案内する、と決めておくのが安全です。法律の細かい扱いは、事案によって変わります。心配なときは、ハローワークや社会保険労務士などの専門家に相談してください。
中小企業が小さく始める手順
大がかりに始めて、続かなくなるのがいちばんもったいない失敗です。小さく始める手順を整理します。
まず、目的と「伝えたい相手」を決める
エンタメ自体が目的になると、途中で迷います。次の3つを、先に紙に書き出してください。
CHECK始める前に決めておくこと
- 誰に届けたいか(新卒、若手の中途、地元の高校生、その家族など)
- その人に、何を知ってほしいか(仕事の中身、人柄、社長の考えなど)
- 見たあと、どこに進んでほしいか(求人票、問い合わせ、見学)
「若い人に来てほしい」だけでは、広すぎます。「地元の工業高校の生徒に、現場の一日を知ってほしい」くらいまで絞ると、形が選びやすくなります。
手法は1つだけ選んで、試す
目的が決まったら、表から合いそうな手法を1つだけ選びます。同時に始めると、どれも中途半端になります。
小さく始める5つの手順
- 目的を決める誰に、何を伝え、どこに進んでほしいかを書き出す
- 手法を1つ選ぶ手間と続けやすさを見て、社内で回せるものにする
- 中身を確認する盛りすぎていないか、条件は求人票と一致しているか、社員に見てもらう
- 出す場所を決める求人サイト、自社のページ、SNS、説明会のどこに置くかを決める
- 反応を見直す見られた数、問い合わせの数、面接で聞かれたことを記録して、次を決める
<例: 従業員30人ほどの運送会社の場合(架空の例です)>
新しいドライバーを増やしたいと考えた運送会社が、まず「朝の点呼から最初の荷下ろしまで」を30秒の縦型動画にして、SNSに出す。条件は動画に入れず、プロフィール欄から求人票へ案内する。
3か月ほど続け、面接で「動画を見ました」と言う人がいたかどうかを数えて、続けるかどうか決める。
反応を見て、続けるか決める
効果はすぐには出ないことがありますが、何も見ないまま続けるのは危険です。見るのは次の3つで十分です。
- 見られた数(閲覧数、読まれた数)
- 問い合わせや応募の数と、そのきっかけ
- 面接で「見ました」と言われた回数
応募者に「どこで知りましたか」と聞くことを、面接の最初のルールにしておくと、記録が自然にたまります。数字が小さくても、面接で話題になれば、それは効いている手がかりです。ただし、数が少ないうちは、偶然の影響も大きいので、結論を急がないでください。
自社に合うかを、見極めるには
向いているのは、条件より中身で勝負したい会社
給与や休日で大手に勝てない会社ほど、人柄、仕事の中身、働く人の顔を見せる価値があります。条件が横並びなら、最後は「どんな人と働くか」で選ばれるからです。
向いていない、または後回しにしたほうがいい場合
- 募集条件や仕事の内容が、まだ社内で決まっていない
- 受け入れる社員の協力が、まったく得られない
- 入社後の定着の問題が大きく、先に職場の見直しが必要
最後の場合は、エンタメで入り口を広げても、辞める人が増えるだけです。定着の問題は、先に社内で整えるほうが優先です。
外部に頼むか、自社でやるか
ショートドラマや漫画のような制作が必要な手法は、外部の会社に頼むことが多くなります。SNSの日常発信や職場見学は、自社だけで始められます。まず自社でできる手法から試す順番も現実的です。外部に頼む場合は、取材やシナリオが含まれるか、修正は何回か、何年どこで使えるかを、見積もりの段階で確かめます。
よくある質問
採用にエンタメを取り入れるのは、ふざけていると思われませんか
遊びを入れすぎると軽く見えることはあります。判断の目安は、「社長が自分の家族に見せられるか」です。大変な場面も入れ、条件は求人票で正確に伝えれば、信頼を損ないにくくなります。
ショートドラマ・漫画・SNSは、どれから始めればよいですか
社内で回せる手法を1つだけ選びます。自社だけで始めやすいのはSNSの日常発信や職場見学、制作が要るのはショートドラマや漫画です。表の「主な手間」と「始めやすさ」で選んでください。
効果は、どうやって確かめればよいですか
見られた数、問い合わせや応募の数、面接で「見ました」と言われた回数を記録します。応募者に「どこで知りましたか」と聞くのが第一歩です。数が少ないうちは偶然の影響も大きいので、結論を急がないでください。
まとめ
- 求職者は、スマホと動画、SNSで会社を先に見ている。条件だけの求人票では、人柄や空気は伝わりにくい
- 物語や遊びは、人柄を場面で見せ、自分に置き換えて考えやすくし、覚えてもらいやすくする。応募の決め手は、そのあとで見る条件と会社の実際の姿
- 漫画、ショートドラマ、ゲーム・診断、SNS、職場見学は、得意なことと手間が違う。一つが正解なのではなく、自社の目的と手間に合うものを選ぶ
- 公表されている例でも、遊びや物語は「入り口」で、確かめる場所が別に用意されている。成果の数字までは公表されていない例が多い
- 盛りすぎ、ふざけすぎ、条件の食い違いが落とし穴。大変な場面も見せて、条件は求人票で正確に伝える
- 小さく始めるなら、目的を決め、手法を1つ選び、面接で「どこで知りましたか」と聞いて見直す
迷っているなら、まず「自社でいちばん伝わりにくいこと」を1つ書き出してください。それを場面で見せられる形が、自社に合うエンタメの候補です。



