中小企業の求人倍率を従業員規模別に見る|採用が難しい理由と進め方

求人を出しても応募が来ない。やっと来た応募者に断られた。入社してくれたのに、数年で辞めてしまった。中小企業の社長から、こうした話をよく聞きます。
この記事は、建設・製造・運送・介護など、社長自身が採用に関わっている会社に向けて書きました。採用が難しくなっている背景を公的な統計で確かめたうえで、大手と同じ土俵に乗らない採用の進め方を、順を追って整理します。
目次
中小企業の求人倍率は、数字で見るとどれくらい難しいか
「うちだけ苦戦している」と感じていても、数字で見ると、人を探しにくいのは広く起きていることです。まず全体の状況から確かめます。
全体の有効求人倍率は1.18倍
有効求人倍率とは、ハローワークに登録している求職者1人に対して、何件の求人があるかを表す数字です。1倍を超えると、求職者より求人のほうが多い状態です。
厚生労働省の「一般職業紹介状況」(2026年10月2日公表)では、2026年8月の有効求人倍率(季節調整値)は1.18倍でした。正社員だけで見た有効求人倍率は1.00倍です。新規求人倍率は2.06倍でした。
求人が求職者を上回る状態が、続いています。求職者1人を、複数の会社が探していると考えると、実感に近いはずです。
職種で見ると、差はもっと大きい
全体の数字は、職種ごとの差をならした平均です。同じ厚生労働省の統計に、職業別の倍率が載っています。2026年8月の数字を見ると、倍率は職種によって大きく開いています。
職業別の有効求人倍率(2026年8月、常用・パート含む)
厚生労働省「一般職業紹介状況」(令和8年8月分)の参考統計表7-1。原数値(季節調整なし)のため、前の節の1.18倍(季節調整値)とは一致しません。
建設、介護、運転の職種は、いずれも平均の1.06倍を大きく上回っています。建設躯体工事は8倍を超えており、求職者1人に対して8件以上の求人がある計算です。一方で、運搬・清掃・包装等のように1倍を下回る職種もあります。
自社の職種が上のほうにあるなら、求人を出して待つだけでは足りない状況だと考えたほうがよさそうです。
用語の説明: 原数値と季節調整値
月ごとの求人・求職の数は、年度末や夏に増えるなど、季節によって動きます。その動きをならしたものが季節調整値で、ニュースで伝わる「1.18倍」はこちらです。職業別の表は、季節調整をしていない原数値で出ています。2つを並べて比べないように注意してください。
大卒求人倍率を従業員規模別に見ると、300人未満は8.98倍
新卒の採用でも、同じことが起きています。リクルートワークス研究所の「大卒求人倍率調査」は、大卒求人倍率を従業員規模別に公表していました。2026年卒(2025年4月24日公表)の数字は次のとおりです。
表は横にスクロールできます
| 従業員規模 | 大卒求人倍率(2026年卒) | 読み方 |
|---|---|---|
| 300人未満 | 8.98倍 | 学生1人に、およそ9件の求人 |
| 300〜999人 | 1.43倍 | 求人が学生をやや上回る |
| 1,000〜4,999人 | 1.05倍 | ほぼ同じ数 |
| 5,000人以上 | 0.34倍 | 求人より学生のほうが多い |
出典: リクルートワークス研究所「第42回 ワークス大卒求人倍率調査(2026年卒)」。2027年卒の調査からは、規模別の求人倍率は公表されなくなりました。
同じ新卒でも、会社の規模で探しやすさがまるで違います。
最新の2027年卒(2026年4月23日公表)では、全体の大卒求人倍率は1.62倍で、2年連続の低下でした。ただし、従業員300人未満の企業の求人数は38.5万人で、前年より3.5%減っています。5,000人以上の企業だけが4.0%増えました。求人が減ったから楽になった、とは言い切れません。
中小企業の採用が難しくなる理由
数字で状況は分かりました。次に、なぜ中小企業の側で応募が集まりにくいのかを、現場でよく起きることから整理します。以下は統計ではなく、採用の相談でよく挙がる一般的な理由です。
会社を知ってもらう入口が少ない
学生や転職希望者が仕事を探すとき、最初に見るのは社名を知っている会社です。知っている会社の中から選ぶので、名前を知られていない会社は、比べてもらう場所にたどり着けません。
求人サイトでは、同じ画面に数百件の求人が並びます。給与や休日の数字だけで並べられると、目に留まりにくくなります。
条件を並べるだけでは、違いが伝わらない
求人票は、給与・休日・勤務地を同じ形式で書くので、会社ごとの違いが見えにくくなります。現場の様子、仕事の手応え、どんな人と働くのか。応募を決める大事な部分が、求人票には入りません。
注意「アットホームな職場です」だけで終わらせない
どの会社の求人票にも書いてある言葉は、読む人の記憶に残りません。「何がアットホームなのか」を、昼休みの過ごし方や、新人の最初の1か月の様子のような具体的な場面で書くと、初めて会社の姿が見えてきます。
採用にかけられる手間と時間が少ない
大手には採用の担当部署があります。中小企業では、社長や総務の担当者が現場の仕事の合間に、求人の準備や面接、連絡を行います。返事が数日遅れやすいのは、人手が足りないからです。
大手と同じ土俵で戦わない
数字が示すとおり、知名度や条件を並べる土俵では、中小企業は不利です。勝てる場所は、別にあります。
負けやすいところ
はっきりしているのは、次の3つです。
- 知名度。社名を知っている人の数が違います
- 初任給や福利厚生など、数字で並べられる条件。大卒初任給は、従業員規模が大きいほど高い結果が出ています(リクルートワークス研究所の2027年卒調査)
- 説明会や広告にかけられる費用と人手
この3つで正面から競うと、苦しくなります。力を入れるなら、別の場所です。
勝てるところ
中小企業の強みは、大手が簡単にまねできない部分にあります。
- 社長との距離が近い。入社した日から、社長に直接話を聞ける
- 任される範囲が広い。若いうちから、現場の一部を任せてもらえる
- 地元とのつながりがある。この町で、この仕事を続ける意味が見える
- 仕事の全体が見える。自分の仕事が、誰の役に立っているかが分かる
これらはすべて、求人票の数字にならない部分です。逆に言うと、伝えなければ、ないのと同じになります。
「うちには強みがない」と思ったとき
「特別な技術も、有名な取引先もない」。そう感じる社長は少なくありません。それでも、毎日続けている仕事のなかに、外から見ると魅力になる部分があります。
<例: 建設会社の社長が、自社の強みを書き出してみると(架空の例)>
- 社員は12人。社長が全員の名前と得意な作業を把握している
- 入社2年目から、小さな現場の段取りを任せている
- 地元の学校や公共の橋、道路の工事が多く、完成したものを家族に見せられる
- 現場の昼ごはんは、全員で同じ場所でとる
どれも、社長にとっては「ふつうのこと」です。しかし、10人未満の現場で顔の見える関係のなかで働きたい人にとっては、はっきりした選ぶ理由になります。
採用の進め方を5つの段階で整理する
何から手をつけるか迷うなら、次の順番で考えます。先に決めるべき2つがあいまいだと、求人を出しても手応えが出ません。
採用を進める5つの段階
- 誰に来てほしいか年齢や経験より、どんな考え方や状況の人に合うかを決める
- 伝える中身を決める仕事の様子、社長の考え、任せる範囲を、具体的な場面で言葉にする
- どこで出会うか来てほしい人が見ている場所を選ぶ。手段は1つに絞らない
- 応募後の対応返事の速さと、面接での伝え方を決めておく
- 入社後最初の数か月の過ごし方を決め、入る前の印象とのずれを減らす
誰に来てほしいかを決める
「若くて元気な人」では、決まっていないのと同じです。20代なのか、経験者なのか、未経験でも手に職をつけたい人なのか。それで伝える中身も出会う場所も変わります。
決めるときは、今いる社員のなかで「この人が来てくれてよかった」と思う人を思い浮かべ、入社の決め手を本人に聞くのがいちばん確かです。
伝える中身を、場面で決める
来てほしい人が決まったら、その人が知りたいことを書き出します。給与や休日のような条件のほかに、次のような内容があります。
CHECK応募する人が知りたいこと
- 1日の仕事の流れ(朝から夕方まで、何をするか)
- 入社して最初の1か月に、何を教わるか
- 先輩はどんな人で、何人いるか
- 休みの日や残業が、実際はどうなっているか
- 社長はどんな考えで、会社をどうしたいのか
- 3年後、5年後に、どんな仕事を任される可能性があるか
全部を求人票に載せる必要はありません。採用ページや面接など、置き場所に合わせて分けます。
採用の手段を比べて、組み合わせる
出会う場所は、手段によって来る人が違います。どれが一番よいという答えはなく、来てほしい人がいる場所を選んで、2〜3つ組み合わせるのが現実的です。
主な手段を比べる表
表は横にスクロールできます
| 手段 | 費用の目安 | 向いている場面 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| ハローワーク | 求人を出すのに費用はかからない | 地元で経験者を探す | 求人票の書き方が応募数に影響する |
| 求人サイト・求人媒体 | 掲載料がかかるのが一般的 | 多くの人の目に触れさせたい | 大手の求人と並ぶので見せ方の工夫が要る |
| 自社の採用ページ・SNS | 掲載の費用は大きくかからない | 会社の中身を深く伝える | 見つけてもらう入口を別に用意する |
| 社員・取引先の紹介 | 自社の取り決めによる | 入社前後のずれを小さくしたい | 紹介できる人の数には限りがある |
| 合同説明会・学校との連携 | 費用と人手が必要 | 学生や若い人に直接会う | 短い時間で印象づける準備が要る |
| 人材紹介 | 成功時に費用が発生する形が一般的 | 条件に合う人を紹介してもらう | 費用の考え方は会社ごとに違うので契約前に確認 |
手段を組み合わせるときの考え方
たとえば、ハローワークで求人を出し、自社の採用ページに会社の中身を詳しく載せておく。求人票を見た人が社名で検索して採用ページにたどり着けば、条件だけで比べられる状況から一歩出られます。

会社の中身を伝える方法としては、写真、社員のインタビュー、動画、採用マンガなどがあります。文章が苦手でも、場面を見せる方法のほうが伝わりやすい場合があります。どれを選ぶかは、来てほしい人が普段見ているものに合わせます。
求人票・募集要項で守ること
求人を出すときは、法律で決まっているルールがあります。たとえば、固定残業代(一定時間分の残業代をあらかじめ給与に含めて払う仕組み)を使う場合、厚生労働省・都道府県労働局・ハローワークのリーフレットは、募集要項や求人票に次の3つをすべて書くよう求めています。
注意固定残業代を表示するとき、3つ全部を書く
- 固定残業代を除いた基本給の額
- 固定残業代に関する労働時間数と金額などの計算方法
- 固定残業時間を超える時間外労働、休日労働、深夜労働に対して、割増賃金を追加で支払うこと
求人票に書いた条件と、実際の条件が違うと、入社後のトラブルになります。同じリーフレットは、ハローワークへの申出や苦情でいちばん多いのは賃金(固定残業代を含む)に関することだと紹介しています。
応募があってから、入社までの対応
手段を整えて応募が来たら、次は対応です。実はここで、せっかくの応募を逃してしまう会社が少なくありません。
返事は、早いほどよい
応募した人は、ほかの会社にも応募しているかもしれません。返事が遅いと、「関心が低いのかな」と受け取られやすくなります。即日が難しくても、「いつまでに連絡します」を最初に伝えるだけで、不安は小さくなります。返事の速さは、会社の姿勢として伝わります。
面接では、聞くより先に話す
面接は、会社が応募者を見る場であると同時に、応募者が会社を見る場でもあります。質問ばかりが続くと、応募者は「選ばれるかどうか」だけを気にして、会社のことを知る余裕がなくなります。
社長がまず、会社の仕事と考えを5〜10分話す。そのあとで、応募者の話を聞く。こうした順番にするだけで、応募者の緊張が下がり、本音を聞き出しやすくなります。
POINT面接で、会社から伝えておくこと
- 仕事で大変なこと、きつい時期があること
- 期待している役割と、任せたい範囲
- 休みや残業の実際の状況
- 良いことだけでなく、合わない人もいるということ
内定から入社までの連絡を空けない
内定から入社日までが長いと、不安が大きくなります。職場を見てもらう、先輩と話してもらう、書類を早めに案内する。連絡を途切れさせないことが、辞退を減らします。
入社後に辞めてしまわないために
採用は、入社が決まっただけでは終わりません。入社後の定着まで含めて、ようやく採用が成り立ちます。
規模が小さいほど、離職率は高い傾向がある
厚生労働省の「新規学卒者の離職状況」(2026年10月23日公表、令和5年3月卒業者)によると、新規大卒就職者が就職後3年以内に離職した割合は、全体で31.2%でした。これを事業所の規模別に見ると、差が出ます。
大学卒の就職後3年以内の離職率(令和5年3月卒業者、事業所規模別)
厚生労働省「新規学卒者の離職状況」。雇用保険のデータをもとにした推計で、会社の事情や職場の環境は反映されていません。
小さい事業所ほど離職率が高い傾向があります。入社した人が定着しにくいことも、中小企業の採用が難しい理由のひとつです。ただし、この数字は規模別の平均で、個々の会社の状況は反映していません。採用の工夫で変えられる部分があります。
入る前に、仕事のことをできるだけ見せる
採用の段階で減らせるのは、「入る前に思っていたのと違った」というずれです。見学や職場体験、先輩社員との面談など、実際の様子を見てもらう機会を設けます。良いことだけを話さず、大変なことも先に伝えます。それでも来たいと言う人は、入社後の定着につながりやすくなります。
最初の3か月の過ごし方を決めておく
入社直後は、誰に何を聞けばよいか分からず、不安が大きい時期です。最初の3か月の流れを、あらかじめ紙に書いて渡します。
<例: 入社後の最初の3か月の流れ(架空の例)>
- 1週目: 会社の人の紹介、安全の基本、先輩の仕事を横で見る
- 1か月目: 簡単な作業を先輩と一緒に行い、毎週15分、社長か先輩と話す
- 3か月目: 一人でできる仕事を増やし、これからの目標を一緒に決める
よくある質問
大手と同じ土俵で戦う必要はありますか
ありません。知名度や初任給のように数字で並べられる条件は、大手が有利です。社長との距離、任せる範囲、地元とのつながりなど、伝えなければないのと同じ強みを具体的に伝える形が現実的です。
専任の担当者がいなくても、採用はできますか
できます。ただし、返事が遅れやすいので、「いつまでに連絡します」を先に伝えると、応募者の不安を小さくできます。面接も、社長が先に会社の話を5〜10分することから始められます。
求人倍率が高い職種は、あきらめるしかありませんか
倍率が高いのは、求職者に選ばれる側に回りやすいということです。待つだけでは足りませんが、手段を2〜3つ組み合わせ、会社の中身と大変なことも先に伝えると、入社後のずれを減らせます。
新卒の規模別の求人倍率は、今も見られますか
2026年卒までは公表されていましたが、2027年卒の調査からは公表されなくなりました。この記事の数字は2026年卒のものです。
まとめ
- 有効求人倍率は全体で1.18倍(2026年8月)。職種別では、建設躯体工事が8.25倍、介護サービスが3.89倍など、人を探しにくい職種がある(厚生労働省)
- 大卒求人倍率は、従業員300人未満で8.98倍、5,000人以上で0.34倍(2026年卒)。知名度や条件で競うと不利になる(リクルートワークス研究所)
- 大手と同じ土俵に乗らず、社長との距離や任せる範囲など、数字にならない強みを具体的に伝える
- 手段は1つに絞らず、2〜3つ組み合わせる。応募後は返事を早く、面接では先に会社のことを話す
- 入社後3年以内の離職率は、小さい事業所ほど高い傾向。入る前に大変なことも見せて、ずれを減らす
最初の一歩として、今いる社員の中で「この人が来てくれてよかった」と思う人に、「入社を決めた理由は何だった?」と聞いてみてください。その答えが、会社が伝えるべき中身です。



