採用マンガの事例の見方|業種別に、自社に合うかを判断するポイント

制作会社のサイトを開くと、必ず「制作事例」というページがあります。眺めてみると絵はきれいで、どれも良さそうに見える。けれど、それで自社に合うのかは分かりません。
この記事は、建設・製造・運送・介護などの中小企業の社長に向けて、採用マンガの事例の見方を整理したものです。事例を何件見るかより、どこを見るかで判断が変わります。制作会社や導入企業が自分で公開している事例を5件読みながら、確かめ方を説明します。
目次
採用マンガの事例には、どんな種類があるか
業種別・目的別・形式別に分かれている
公開されている事例は、整理の仕方が会社によって違います。よく見かける分け方は、次の3つです。
表は横にスクロールできます
| 分け方 | 例 | 見るときの狙い |
|---|---|---|
| 業種別 | 製造、IT、人材、イベント企画など | 自社と似た仕事の会社が、何を描いたかを見る |
| 目的別 | 新卒採用、中途採用、会社紹介、内定者フォローなど | 自社が来てほしい人に向けた例を探す |
| 形式別 | 小冊子、Web漫画、縦読み、漫画動画、チラシなど | 自社の使い方(説明会か、採用ページか)に合う形を見る |
自社と同じ業種の事例が見つからなくても、目的と形式が近ければ参考になります。業種は違っても、「仕事の中身が外から見えにくい」「若い人に会社を知ってもらいたい」といった悩みが同じなら、見る価値があります。
事例の数が多い会社が良いとは限らない
事例が何十件も並んでいると、安心したくなります。ただ、数だけでは、自社に近いものがあるかどうかは分かりません。
事例ページに載らないことも多い
事例ページには、会社名と漫画の画像だけが載っていて、費用、期間、使い方、成果が書かれていないことがあります。載っていないのは、隠しているというより、導入企業の了解が取れていない、数字を測っていない、といった理由が多いと考えられます。書かれていない部分は、問い合わせで聞けば済む話です。
この記事で読んだ事例について
この記事で紹介する5件は、すべて制作会社が自社サイトで公開している事例です。社名は伏せて「A社」「B社」と書きます。A社とB社は制作会社で、事例の主役はその導入企業です。確認日と出典は、記事の末尾にまとめました。
事例ページで見る5つのところ
誰が主人公か
主人公が誰かで、漫画の役割が変わります。社長なら会社の考え方、若手社員なら職場での成長、応募を迷う人なら読み手自身の気持ちに寄り添う話になります。
主人公が、自社が来てほしい人に近いか。これがいちばん分かりやすい確かめ方です。新卒の高校生に来てほしいのに、主人公が経験豊富な中堅社員では、読み手は自分に置き換えにくくなります。
何を伝えている漫画か
事例を見るときは、「何の漫画か」を一言で言えるか、考えてみます。会社の事業内容を伝える漫画か、仕事の一日を見せる漫画か、社長の思いを語る漫画か。
POINT一言で言えるかで、見分ける
一言で言えない漫画は、伝えたいことが絞れていない場合があります。逆に、一言で言えるのに自社と中身が違うなら、その事例は参考にしない、という判断もできます。
どこに載せているか
漫画は、載せる場所で役割が変わります。採用サイトやSNSなら、見つけてもらう段階。説明会で配る小冊子なら、手元に残す段階。採用ページの仕事紹介の下にリンクを置くなら、読み終えた人を応募へ案内する段階です。
載せる場所と、漫画の役割
採用サイト・SNS
まだ会社を知らない人に見つけてもらう段階。数ページ単位で出し、続きを採用ページで読んでもらう形も多い。
説明会で配る小冊子
話を聞いたあとも手元に残る段階。会社の考えを持ち帰ってもらう。
採用ページの仕事紹介の下
読み終えた人を、応募や募集要項へ案内する段階。
事例ページに掲載場所が書いてあれば、自社の使い方と同じかを確かめます。書いていない場合は、問い合わせで聞く項目の筆頭になります。
長さと制作期間
ページ数と制作期間は、手間の目安です。今回読んだ事例では、8ページと10ページ、期間は2週間と2か月と、幅があります。ただし、期間は「相談から納品まで」なのか「作画だけ」なのかが、書かれていないことがあります。
また、同じ8〜10ページでも、描く内容によって大きさは違います。仕事の一日を描く漫画と、会社の考え方という抽象的な話を漫画に直す漫画では、後者のほうが脚本の打ち合わせに時間がかかります。事例の期間を見るときは、中身の難しさも合わせて考えてください。
条件をどう扱っているか
求人票に書くような給与や休日を、漫画の中でどう扱っているか。伝えにくい条件を漫画から外し、採用ページへ案内する作りになっているかを見ます。
良い事例は、漫画で伝えることと求人票で伝えることを分けています。条件まで漫画に詰め込んだ事例は、読みにくくなりがちです。分け方の考え方は、採用マンガとはでも整理しています。
公開されている事例を5件読む
5件を先に表にまとめます。細かい中身は、このあと順に読みます。
表は横にスクロールできます
| 事例 | 目的 | 形式 | 載せた場所 | 制作期間 | 公表された成果 |
|---|---|---|---|---|---|
| 鉄鋼(A社が公開) | 高校生向けの技術職採用 | 小冊子 | 説明会で配布 | 2か月 | 記載なし |
| IT(A社が公開) | 会社紹介・採用 | Web漫画 | 自社の採用ページ | 2か月 | 記載なし |
| イベント設営(A社が公開) | 中途採用 | 縦読み | 採用ページにリンク、会社説明 | 記載なし | 感想のみ(数字なし) |
| エンタメ(B社が公開) | 学生向けの総合職採用 | 8ページ | 採用サイト・説明会・SNS | 記載なし | 記載なし |
| 作り直し(B社が公開) | 採用(リニューアル) | 10ページ | 採用サイト・SNS | 2週間 | コメントのみ(数字なし) |
5件のうち、応募数などの数字を公表していたものは1件もありません。
製造・IT: 会社の中身を伝える例
製造業の例(A社が公開)。鉄鋼を扱う会社が、高校生向けの技術職採用で作った漫画の小冊子です。会社の悩みは「業務内容が分かりづらいので、高校生や先生に知ってもらいたい」こと。工場の現場写真が使えなかったため、イラストで工場の体験を疑似的に見せる案になりました。使い方は採用説明会での配布で、制作期間は2か月と書かれています。成果は載っていません。
IT業の例(A社が公開)。IT企業の会社紹介・採用漫画です。「会社が何をしているのか伝わりにくい」「掲げる指針がイメージしづらい」という悩みに対して、概念的な話を漫画に直し、社長を登場させて親しみやすさを出しました。若者向けの絵柄で、自社の採用ページに載せています。制作期間は2か月、成果は載っていません。
どちらも、「やっていることが外から見えにくい」会社の例です。ここに共通するのは、現場写真や文章では伝えきれない部分を、漫画に任せていることです。
現場仕事: 中途採用の例
イベント設営の現場の例(A社が公開)。ファミリー向けイベントを企画・運営する会社の、設営部署の紹介漫画です。ツール部門(遊具の管理・運搬、設営・撤去)にエントリーが集まらず、早期退社や、応募後に連絡が取れなくなるケースもあったことが背景にあります。スマホで読む前提でA4ではなく縦読みで作り、資料写真を多く渡しました。採用ページに漫画へのリンクを置き、会社説明ではカタログや資料と組み合わせています。導入後は、学生から「漫画見ました」と声をかけられることが増え、設営の説明がスムーズになったそうです。応募数などの数字は載っていません。
現場仕事の会社に近い例です。注目したいのは、成果が数字ではなく、現場の感想で書かれている点です。説明がスムーズになった、声をかけられたという変化は、小さな会社でも確かめやすい指標です。
エンタメ・作り直しの例
エンタメ業界の例(B社が公開)。エンタメ業界を志す学生向けの、総合職の採用漫画です(8ページ)。ライブ帰りの電車で就活の話が出る場面から始まり、主人公は、ファンとして楽しむ側から、表現する人を支える側へと気持ちが移っていきます。仕事内容の説明より、現場のトラブルを乗り越えて「好き」を届ける側になれたと実感する場面を山場にしています。採用サイト、会社説明会、SNSで使われています。
作り直した例(B社が公開)。採用サイトとSNSに載せている10ページの採用漫画で、初版の反響を受けて、ストーリーとキャラクターを作り直しました。制作期間は2週間。導入企業のコメントとして「リメイク版は初版以上の反響で、スカウト返信率も向上した」と載っていますが、数字はありません。
エンタメの例は、仕事の説明を減らし、気持ちの変化を軸にしているのが特徴です。作り直しの例は、一度作った漫画を、反応を見て変える考え方があることを示しています。
業種別の見どころ
ここから先は、5件の事例ではなく一般論です。事例で見るところは、業種で少しずつ変わります。
| 業種 | 事例で見たいところ |
|---|---|
| 建設・製造 | 現場の写真が使えない場合の描き方。技術や仕事の面白さが、素人に伝わる場面になっているか |
| 運送 | 一日の流れ、勤務の時間帯、一人で運転する仕事の様子が、正直に描かれているか |
| 介護 | 大変さと、やりがいの両方が出ているか。夜勤や身体的な負担を隠していないか |
| 飲食 | 忙しい時間帯の様子と、職場の人間関係。長く続けている人の話があるか |
| IT | 仕事の中身が抽象的になりすぎず、具体的な場面になっているか |
業種が違っても、「実際の職場がそのまま描かれているか」を見るのが共通の基準です。盛った漫画は、入社したあとのずれを生みます。
注意同業の事例が少ない業種もある
建設・運送・介護・飲食の採用マンガは、公開されている事例がまだ多くない印象があります。この記事で5件を確認した範囲でも、建設・運送・介護・飲食の事例は確認できませんでした。事例が少ないから向いていないということではありません。近い悩みの事例(仕事が外から見えにくい、など)を見る方法に切り替えてください。
事例の数字の読み方
公表されている数字は、自社調べが多い
採用マンガの効果の数字を載せている制作会社はあります。ただ、第三者が検証した数字は、見つけられませんでした。多くは制作会社の自社調べで、母数や期間が書かれていないこともあります。
たとえば、B社は、導入企業のブース立ち寄り数が前年比1.5〜2倍になったと載せています。ただし同じページに、数値はすべて自社調べで、2025年度の実績・サンプル限定と注記があります。
注意数字を見るときの確認項目
- 誰が測ったか(制作会社の自社調べか、導入企業が測ったか)
- 母数(何社・何人のうちの数字か)
- 期間(いつからいつまでの数字か)
- 漫画以外の変化(求人条件、掲載媒体、時期)が含まれていないか
数字がない事例は、悪い事例ではない
今回読んだ5件のうち、応募数などの数字が載っていたものはありませんでした。感想やコメントだけの事例は、「効果が出ていない」のではなく、「測っていない」「出せない」ことが多いと考えられます。
数字がない事例は、使い方や変化の質を見る材料にします。「学生から声をかけられた」「説明がスムーズになった」は、数字ではないものの、現場で起きたことが具体的に分かる情報です。
自社の事例に当てはめる手順
事例を見ただけでは、自社の判断にはなりません。次の流れで、自社に当てはめます。
事例を自社に当てはめる流れ
- 目的を決める誰に、何を知ってほしいかを一言で書く
- 近い事例を探す業種より、悩みと目的が近いものを3件選ぶ
- 5つの点で見る主人公・伝える中身・載せる場所・長さ・条件の扱い
- 自社の使い方を決める説明会か、採用ページか、SNSかを決める
- 制作会社に聞く聞きたいことを書き出して問い合わせる
CHECK事例を見る前に、社内で決めておくこと
- 来てほしい人は誰か(年代、経験、地元か県外か)
- その人に、いちばん知ってほしいことは何か
- 完成した漫画を、どこで使うか
- 今いちばん困っているのは、応募が少ないことか、辞退や早期退職か
この4つが決まると、事例を見る目が変わります。自社の悩みと同じ悩みを持つ事例を探すほうが、業種が同じ事例を探すより、役に立つことが多いからです。
問い合わせで事例について聞くこと
事例に載っていないことを聞く
事例ページで分からなかった点は、問い合わせで聞けます。次の質問が役に立ちます。
- 掲載場所は、どこでしたか(採用サイト、説明会、SNSなど)
- 制作期間は、相談から納品まででしょうか
- ページ数は、何ページでしたか
- 導入企業は、漫画を使って何が変わったと言っていますか
- 公開していない事例のうち、うちに近いものはありますか
同じ条件で見せてもらう
制作会社が見せてくれる事例は、いちばん良いものが選ばれがちです。できれば、「うちと近い会社の事例を、2〜3件見せてほしい」と頼んでみてください。
POINT見せられない事例があっても、不信にならなくていい
導入企業との契約で、公開できない事例もあります。そのときは、費用や期間は伏せたまま、どんな悩みにどう応えたかを口頭で聞けるか、確かめるとよいでしょう。
見積もりの見方は採用マンガの費用の記事、会社を比べるときの質問は制作会社の選び方の記事にまとめています。
見本と事例は、別のもの
制作会社が用意した見本は、「どんな絵や構成か」を見せるためのもので、実際の導入事例とは違います。たとえばビジコミックの8ページの見本は、架空の建設会社を題材にした見本です。見本は絵柄の好みを確かめる材料に、事例は使い方や変化を知る材料に。分けて見てください。
まとめ
- 事例は、数より、自社に近いかで見る。業種が違っても、悩みと目的が近ければ参考になる
- 見るところは5つ。主人公、伝える中身、載せる場所、長さと期間、条件の扱い
- 公表されている数字は自社調べが多い。数字がない事例も、使い方を知る材料になる
- 自社に当てはめるときは、目的を決め、近い悩みの事例を3件選ぶ
- 事例に載っていないことは、問い合わせで聞く
まず、自社が来てほしい人と、いちばん知ってほしいことを、紙に1行ずつ書いてみてください。その2行が決まれば、事例ページのどこを見ればいいかが、はっきりします。



